教習車

用事があって仕事場を抜け出して外へ出た。
仕事場へ戻る途中、
車が詰まってたんでどうしたのかなと思ったら教習車が先頭を走っていた。
教習車だから仕方ないとはいえ、いくらなんでも遅すぎる。
普通こんなときは教官も車をいったん横へ停めさせて、
後ろの車をいかせるはずだ。
おかしいなと思ったら、広い通りを抜けて狭くなった道でわざわざ車を停車させやがった。
とにかく教習車なので仕方ないけど、
なに考えてんだこの野郎と思ったので
運転してるやつと教官のツラをみてみることにした。
運転はかっちょいいいかした感じのお兄ちゃんで、
教官はおっさんだった。
おっさんがなんか言ってて、運転してたお兄ちゃんはぺこぺこ謝ってた。
細かいことは分からないけれど、どう考えてもこれは教官のミスというか
嫌がらせではないかと思った。
 
俺は免許をとったのは20代だったので、周りに比べて遅かった。
なぜかというと俺は若いとき車が嫌いだったからだ。
だいたいなんで自分の足があるのに車に乗るのか不思議だった。
車の1億分の1のパワーもないような甘えボクちゃんが200馬力の車に乗って
「いえーい」
とかやってるのをみたらその場で死ぬまで殴り続けてもぜひ無罪にしてほしいと思った。
というか、実際に相手が意識をなくすまでやったら通報されて
なぜか俺が警察のおっかないおじちゃんに追いかけられた。
「車はステータス」
とか田舎モン丸出しの感覚でよく男として生きてられるなと思う。
いや、レーサーとか車の修理工さんやディーラーさんとかなら全く話は別で、
そういう人が車にこだわりをもってステータスとしてもそれは当たり前のことだと思うけど。
 
俺は昼さんもよくご存知の教習所で免許を取った。
仕事で仕方なく取りにいったけど、
そのことが元で会社で目の前が真っ白になって副社長とかを病院送りにしちゃった。
それはともかく、
教習所では話によく聞くようなイヤな教官には一回だけあたった。
そのイヤな人も後ですごく優しくしてくれたけど。
俺は初めての路上運転が雨の降る夜で、このときにそのイヤな教官にあたった。
とにかく前がみえない。道もみえない。
交差点で曲がるにしても、
右折専用道路がみえないし直進車用道路かどうかもまったく経験がないから分からない。
そしたら、
「そんなのもわかんないの? 標識みえないの?」
とちくちくいわれた。
こっちも初めての路上運転でぴりぴりしてた上に、まだ若かったので(今もぜんぜん若いけど)
初めてなのに分かるわけねえし、雨なのにてめえには標識みえるのかと答えた。
そしたら、
「口答えするのか」
とちょっと脅し口調でいわれたので上等だと思い、
車に乗ってる間中、ずっと左手で教官の横頭を小突き続けてやった。
ぴりぴりしている上に仕事のあとで余計にいらいらしていたので、
しつこく殴ってた。もちろん左手で片手運転中だから、力は入れてないけど。
そんな力の入ってない拳すら両手でも防げないおっさんがなに威張ってんだとそのときは思った。
おっさんも反撃のつもりかやたらブレーキ踏むので、
こっちもだんだん面白くなってきた。
最初、おっさんは「片手運転するな」とかいってたけど、
15分くらい殴り続けてたらううとかいって泣き出した。
力の入ってない拳でもずっと殴られてると泣くんだなと新発見して感動した。
教習所に勝手に帰って車を降りたらおっさんがなにか喚いて周りの教官とか生徒も寄ってきたので
ハンコ押してくれとおっさんにいったら、すぐ押してくれた。
面白かったけど、まだぴりぴりしてイライラしてたので(このときは仕事で煮詰まってたのもあった)
死ねと大声でおっさんにいった。
これはよく覚えてて、いまだに悪かったなと思ってる。
そのあとそのおっさんにもう一回あたったけど、
超優しかったのであの日は機嫌が悪かったのかなと思った。

やっぱり教官だからといって人に辛く当たるのはよくないと思った。