そこはかとない思い出

中学生のとき、体調がどうしようもなく悪くなって保健室に連れていかれた。
吐き気がひどくて教室で吐いたら大変なことになるからだ。
そのときは気がつかなかったけど、
たぶん給食のときに食べたミカン牛乳ご飯が原因だと思う。
中学生なら誰しも必ず通る道だし、普段食べ慣れてたけど、
あれしか原因が考えられない。
調子に乗って前の日のマーガリンを混ぜたのをよく覚えているので
そのせいかもしれない。
保健室にいって若い女の先生が珍しく優しくしてくれるので
いい気持ちになってたら、ベッドに同じクラスの女の子が寝てた。
後々、ちょっとやさぐれてしまい登校拒否になってしまう子なんだけど、
性格があけすけで長い髪が綺麗で、顔もフケ顔だけど可愛くなくはなかった。
「なにしてんの」といわれたので、「気持ち悪い」と答えた。
実際は、なぜか保健室に来てからぜんぜん気持ち悪くなくなってたけど、
若い女の保険の先生が優しくしてくれるし、
前の年の担任でちょうど今のボクと同じ年の人妻先生も、たまたま授業がなくて
心配して様子を見に来てくれて優しくしてくれるので大満足だったので、
気持ち悪いと言い張った。
そうしたら人妻先生が、
「ちょっと、帰るついでにジャンクマン
(ボクの名前、ここでは擬似的にジャンクマンだヨ!)を送ってあげて」
とベッドの女の子にいった。
「いいよ」
と女の子がいったので、一緒に早退することになった。
正直ボクとしては保健室にいたかったけど、どうせ授業が終わればここぞとばかりに
道家で社会科の男の先生が「動けないならちょうどいい、天罰を与える」とかいって
柔道で投げたりストンピングの嵐をくれたりするのは目に見えているので仕方なかった。
というか何故天罰なのかいまだに分からない。
女の子はSという子で、校庭の横を通るときに別のクラスのやつに
「あ、なんでお前ら帰るんだよ、Sとできてるのか、帰んじゃねーよ」
とかいわれたので、そいつは後でクロスボンバーで鼻血を出してもらった。
Sは、「こいついま調子悪いんだよ、かわいそうだろ、うっせーんだバカ」とか
いってくれたので、ちょっと驚いた。
通学路の住宅街に入ったとき、
「どうしてSは保健室にいて、しかも帰るんだ?」と聞いた。
「あたしもう、しょうがないから」と答えられたのでよく分からなかった。
ボクとSは同じ分譲団地に住んでいた。
ボクの家は両親が共働きで昼間はずっと誰もいなかった。
「もし大丈夫なら家にあがっていい?」とSに聞かれたので、
「いいよ、オレもう大丈夫だし」と答えた。
部屋に入ると「あー、まだぴゅう太あるんだ」といわれた。
Sは小学校6年生のときにもよくうちに来ていたからだ。
「これはオレの命! そして愛!」とか答えた。
「最近、あたし学校休んだりするでしょ」といわれたので、
「風邪ひいてるんだろ?」と答えた。
「あんたたちって本当にバカなんだね、本当は学校にいるんだよ」とか笑いながらいわれて
「バカじゃねえ! 超人だ! レッグラリアート! 烈火太陽脚!」とか答えた。
「誰にも絶対にいわないでね、先生にもU(Sの親友)にもいってないから」
と前置きされた。
「あたし、夕方に家で寝てるとときどき弟と弟の友達に触られる」とかいうので、
「ふーん、仲いいね」とかいったらケリを食らった。
「真面目にきけ」というので、「いや、かなり真面目」と答えると、
「だから、イヤらしいことされてるの」といわれて初めて意味が分かった。
「あんた本当にバカなんだね」とまたいわれたけど、反論しなかった。
「どうして?」と聞いたら「そんなの分からないけど」といわれた。
「最初は胸を揉まれてて、それで目が覚めたんだけど怖くて寝たふりしてた。
その次はキスとかしてきて、怖くてやっぱり寝たふりしてたら直に胸を触られた。
夕方怖くて寝られなくなって夜寝てたら、今度は弟と友達が2人に増えてて、
寝たふりしてるのが向こうには分かってるらしいんだけど、
パンツはいたまま手をあそこに入れられてキスされて、
怖くて泣いたらパンツ脱がされた。でも最後まではいってない」
といわれて、とりあえず自分の股間を隠した。
「それが怖くて家では寝れないから、昼間に保健室で寝てる。
先生には伝えてないけど、事情があるんだって見逃してもらってる」
とのことだったので、とりあえず、
「なんでそれをオレに教えるの?」と聞いた。
「誰かに聞いてもらいたかったから」といわれた。
Sの弟は、その友達を通じてよく知っていた。
一緒にSを触った友達はもっとよく知っていて、先生の前では生徒会でいい人だった。
さらに夜に連れてきたもう一人の友達も知っていた。
「あんたUが好きなんでしょ?」と急にいわれた。
「好きというかなんというか」と答えると、
「もうM中のヤツとやっちゃってるよ、最初は強姦だったみたい」といわれた。
子供の使う言葉なので、
強姦にもそんなに深い意味は込められてはいなかったと思うけど、
ボクはそのとき少しむかっとした。
「あんたはそういうの、したくないの?」といわれたので、
「さっきの話でちょっと・・・」といったら
「変な気起こしたらまたケルからね」といわれた。
で、
「ケルからね」とかいいながらベッドに倒れたSをいま思い返すと、
もしかしたら誘ってたのかなとも思うし、
子供だからそこまで考えていなかったとも思うし。
「あたし帰るね」といわれたので、玄関まで送った。
よく考えてSの弟とその友達を、
次の日だったか何日かしてからだったかとっ捕まえて、電話ボックスに閉じ込めた。
その前にも同じようなことをやったから知ってたんだけど、
外から石でもって奇声をあげながら残虐ファイトのごとくに電話ボックスを殴りつけると、
中にいるやつはびびって外に出て来れなくなることがあるみたい。
「なんでこんなことするんですか」とかいうので、
「よく分からないけど、なんとなくやってみた。もっとやるヨ!」
とかいってだんだんテンションが上がってしまい、
自分で止められなくなって人間を殴り始めたり
力をいれ過ぎて電話ボックスを壊す前に我慢して止めた。
一人がおしっこを漏らしていて、
ああ怖くておしっこ漏らすのって本当にあるんだなあと感動した。
しばらくしてから、Sは保健室にも来なくなった。
完全に登校拒否になったというので、ボクがもしかして悪いことしたかなと思った。
でもUがあとで「Sがなんか、ありがとうっていってくれって」といいにきた。
Sはどうしたのか聞いたら、昼間は元町のほうの親戚の家に寝泊まりして、
夜はこの辺をうろついているとかいった。
ちょうどこのころ、ボクは仲間とチカン退治に凝っていた。
毎晩、それぞれの武器をもって当時問題になっていたチカンを探して歩いていた。
理由は、正当防衛で相手を思いきり殴れるからなのと金一封狙いだったけど、
高校にあがるときにはそれはバカな考えだと分かった。
ボクは熊手を持っていてべアークローで超かっこいいと思っていた。
みんなもそれぞれ金属バットとか手製のヌンチャクとかマッチとか持っていて、
超カッコよかった。
でもチカン退治で夜出歩いていてもSには会えなかったから、
触られるのがなくなったかどうかは聞けなかった。
Sの弟もあからさまにボクを避けるし、
その友達も生徒会を自分でやめて接点がなくなった。
ときどきそこはかとなく思い出す。