電車の中で

昨日、用事があって電車に乗った。
片道2時間くらいのところまでいった。
前の席に若い女の子が座っていて、
ちょっとパンツがみえてしまいそうで恥ずかしかった。
二十歳前後のおとなしそうな、
顔はよくいえば吹石恵にちょっと似ているような感じの子だった。

座席でうたた寝して目が覚めたら、杖をもった足の不自由なお婆さんが
その子がいた席に座っていた。
その子自身はその席の近くに立っていた。
イスを譲ってあげたらしく、いまどき珍しい優しい子だなと思った。

それから20分くらいして、
女の子に「本当にありがとう」と挨拶をしながら、お婆さんは立ち上がろうとした。
女の子に席を返そうとしたらしく、
「お座り下さい」と、手すりにつかまりながら腰を浮かせた。
女の子は気を遣って、
お婆さんが立ちやすいように自分の体を横にそらして、手伝った。

そこに40代か50代前半くらいのおばさん5人がいきなり押し寄せた。
お婆さんが立ち上がりきったところを狙って、席をとった。
たまたまお婆さんの横の席の人も立ち上がったが、その席もぶんどった。

お婆さんが電車を降りるまで女の子は様子を見ていたらしく、
席におばさんたちが座っているのに気が付いて、ちょっと驚いた感じだった。
おばさんたちはでかい声で話し始めてうるさくなったので、
女の子はすぐにボクの座席の真横の手すりまで来て、立っていた。

女の子に「ここに座りな」と声をかけたかったけど、
キザな気もするし、そもそもボクは残虐超人なので
人類に残虐非道冷酷冷徹冷血な仕打ちこそすれ優しくしてはいけないし、
なにより女の子がかえって恐縮しそうなのでできなかった。

相手が男ならそのおばさんたちに文句もいえたけど、
ボクはいったん争いごとを起こすと、
だんだん自分自身の言葉やその状況や相手や自分の血とかで興奮が増してきて
何がなんだか分からなくなってしまい、そうなると警察沙汰は確実で、
相手がおばさんならわざと騒ぎを大きくするだろうし、
鉄道警察はもうイヤなので避けたいと思ってしまって、それもできなかった。

しかし、そのときもいまも思うけど、
やはり男としては卑怯極まりない行動だった。
残虐超人としてはまあまあ正しい行動のような気もするけど。
でもリングの上じゃなければ、残虐超人でも人類に優しくしていいと思った。
その女の子はおとなしそうだったけど、本当に強い人だと思った。
嫁さんになってもらうならああいう人がいいんだろうなと思った。

許されるなら、あのあばさんたちの人生をあの場で終わりにしてやりたかった。